洞穴の中には光がなく完全な闇の世界です。地上では太陽の恵みで多くの植物が育ちます。
暗闇の中では植物の光合成ができないので、緑色の植物は生育できません。つまり、生物の餌になる栄養物が洞穴の中ではほとんど生産されません。洞穴の中では、水流に運ばれた木屑、生物の死体などが栄養物になっていると思われます。また、洞穴の外でエサを取り生活しているコウモリの糞は、洞穴生物にとって重要な栄養分となっています。
洞穴の中の気温は、1年を通じてほぼ一定であり、この生活条件も洞穴で生活する生物にとっては特別な条件です。また、洞穴の中で生物が生息するのは主に水がある所です。ここでは、湿度が高いので水棲生物が水から上がって這うこともあります。
これらの環境から、洞穴で生活している生物は環境に合わせた変化をし、目が小さくなるか無くなる、体が小さい、体の外皮が薄い、体色が白っぽくなる、触角や触毛が長くなる、などの特徴があります。
滝根町の洞穴から見つかっている生物はヤスデ、カニムシ、トビムシ及びカマドウマです。
また、昼間に洞穴の中で休み、夜になると外に出て昆虫を食べて生活しているコウモリがいます。あぶくま洞では、キクガシラコウモリ、コキクガシラコウモリ及びテングコウモリが生活をしています。
第8章 あぶくま洞・入水鍾乳洞は動物の骨の保存場所?
洞穴の中で動物の骨が見つかることがあります。
「オレ、50年前から眠ってる!」「おいらは200年前」「私なんて1,000年前からの住人よ!」
今まで報告されたものでは、あぶくま洞で最も数が多いのはコウモリの骨です。1976年に採集されたのは305頭分のコウモリの骨でした。特徴としては、数が多いこと、洞穴で生活しているコウモリであること、骨の移動がみられないことなどでした。
コウモリ以外の骨では、トガリネズミ、モグラ、ハタネズミ、カワネズミ、タヌキ、アナグマ及びニホンシカが報告されています。これらの動物は現在地上で活動している種類で、水流による土砂の流入と一緒に流れ込んだのか、縦穴から落下したものと思われます。
洞穴の中は動物の骨が保存されるにはよい環境となっています。世界の洞穴からは絶滅した動物の骨や古い人骨が数多く見つかっています。滝根町の洞穴のどこかに貴重な骨が眠っていて、誰かが見つけてくれるのを待っているかも知れません。
最終章 必見!滝根町の洞穴発見史?
滝根町の洞穴で昔からその存在が分かっていたのは、鬼穴と他の小さな洞穴だけでした。
坂上田村麻呂が奥州に東征し、この地方の豪族大多鬼丸が戦いに敗れ滅ぼされた時、鬼穴の「奈落の井戸」に財宝を隠したという伝説が残されていました。ただその伝説の井戸は単なるくぼみでしかありませんでした。しかし、多少場所は違いましたが1977年、伝説を裏付けるように縦穴が発見され、深さ51mであぶくま洞東本洞につながったのです。
洞穴調査の中で最も重要なことは、その洞穴の存在を発見することから始まります。それは、洞穴は外部から調べてもその存在は分からず、その中に入りその地点に到達しない限り、誰にも発見されないという性格を持つ存在だからです。また、発見を形に表す測量図の作成は多くの人と時間を必要とします。この「発見と測量」はいかなる学術調査よりも最優先されます。なぜなら全ての学術研究の基礎となるからです。そのような意味で、以下は滝根町の重要な初めての探検と測量史です。
◎鍾乳洞探検史
1927 年8 月25 日 | ●入水鍾乳洞発見(旧名:滝根不動洞)蒲生明、佐藤留男、鈴木菊意 |
---|---|
1929 年8 月26 日 | ●入水鍾乳洞第2 洞探検鈴木菊意、蒲生明、鈴木広仲、渡辺賢司 |
1934 年12 月28 日 | ●文部省指定天然記念物となる。名称も入水鍾乳洞となる。 |
1965 年 | ●入水鍾乳洞第1 洞平面図・縦断面図作成三本杉巳代治 |
1968 年7 月 | ●鬼穴平面図専修大学探検会 |
1968 年9 月 | ●入水鍾乳洞第1洞~第3洞最奥部まで及び左洞平面図作成日本大学探検部 |
1969 年9 月 | ●石灰石採石中にあぶくま洞発見(旧名:釜山鍾乳洞)柳沼伝二郎、先崎三郎 |
1970 年3 月2 日 3 月21 日 | ●あぶくま洞洞口から60m地点の狭小部を掘削し奥部発見日本大学探検部 ●滝根御殿・南西支洞(現入口)発見。あぶくま洞下層平面図作成日本大学探検部 |
1970 年8 月 | ●あぶくま洞平面図・縦断面図作成洞くつ団研グループ ●あぶくま洞月の世界発見滝根町役場 先崎定美 |
1973 年11 月24 日 | ●あぶくま洞東本洞発見(旧名:大滝根洞右洞・左洞)Japan Cavers ClubⅡ(以下JCCⅡ) |
1974 年4 月28 日~ 1975 年5 月5 日 | ●あぶくま洞東本洞及び奥本洞平面図作成 |
1976 年2 月10 日 | ●あぶくま洞東本洞-あぶくま洞狭小部突破2洞連結JCCⅡ |
1977 年4 月14 日 | ●鬼穴-あぶくま洞東本洞深さ51mの縦穴で連結JCCⅡ |
1994 年7 月27 日 | ●入水鍾乳洞左洞・山溝プール突破。20m延長JCCⅡ・秘境研究会 |
1995 年6 月25 日 | ●あぶくま洞東本洞大多鬼丸ホールに高さ日本一の45mのフローストン発見 あぶくま洞環境保護調査団 |
1995 年6 月26 日 | ●あぶくま洞本洞に高さ日本第2位40mのフローストン発見 あぶくま洞環境保護調査団 |
参考文献
■石川弥・菊池正志(1971 年) | 入水鍾乳洞について。地底と樹海と氷原の世界に自らの生き甲斐を求めた男たちの記録-安家・青木が原・知床-日本大学探検部 |
---|---|
■山内 浩(1977 年) | 第17回ケイビング大会報告。福島県滝根町の洞穴、日本ケイビング協会 |
■鹿島愛彦(1977 年) | 滝根カルスト洞穴群の鍾乳石。福島県滝根町の洞穴、日本ケイビング協会 |
■長谷川善和(1977 年) | あぶくま洞のコウモリ遺骸群集。福島県滝根町の洞穴、日本ケイビング協会 |
■庫本 正(1977 年) | 滝根地域洞穴群の動物相。福島県滝根町の洞穴、日本ケイビング協会 |
■徳富一光(1977 年) | 科学のアルバム30 しょうにゅうどう探検 あかね書房 |
■山内 浩(1977 年) | 学研ワールド科学館 地底探検 学習研究社 |
■菊池洋道(1983 年) | 大滝根洞との出会い。JAPAN CAVING Vol.14。日本ケイビング協会 |
■高橋紀信(1990 年) | 鍾乳洞に残された動物遺骸。滝根町史、滝根町 |
■溝淵三郎・菊池正志(1994 年) | 入水鍾乳洞左洞調査報告書。秘境研究会・Japan Cavers ClubⅡ |
■山田博明(1994 年) | 滝根町教育委員会発行「滝根町史」について、Japan Cavers ClubⅡ |
■あぶくま洞環境保護調査団(1995 年) | 平成5年度あぶくま洞ケイブシステム調査報告書 |
■菊池正志(1995 年) | 平成7年度あぶくま洞環境保護に係る調査の成果と今後の課題・付記大滝根洞の名称変更について 平成7年度あぶくま洞環境保護に係る調査報告書 あぶくま洞環境保護調査団 |
■船木 實(1999 年) | 滝根町ケイブシステム あぶくま洞-仙台平-入水鍾乳洞の地学的考察 平成11年度あぶくまケイブシステム調査報告書 あぶくま洞環境保護調査団 |
■山内 正(2000 年) | あぶくま洞東本洞洞口付近調査報告書 平成12年度あぶくまケイブ システム調査報告書 あぶくま洞環境保護調査団 |